学校におけるスポーツ障害


 学校におけるスポーツ障害は全科的に存在する.本稿では頻度の高い内科的障害,精神的障害,整形外科・外科的障害を取上げ,診断・治療,予防,対応策などについて述べる.

内科的障害

1.急性障害

 (1) 死亡事故:スポーツ障害の中で最も悲劇的な障害である.日本体育・学校健康センターの資料によるとスポーツ中・後の死亡事故は全国で150〜200件起っている.種目としては陸上競技が最も多く,次いで水泳である.原因疾患としては心疾患が多く,最近ではQT延長症候群による例が目立っている.

 (2) 熱中症・日射病:熱中症には熱射病,熱疲労,熱痙攣がある.夏の炎天下のスポーツ練習時に起る.年間に数十名の死亡例があり,重症な急性スポーツ障害の一つである.スポーツ練習中に水分摂取を禁止されることがあるが,間違いである.熱中症は予防が原則である.夏の炎天下のスポーツ練習時には,適度な休息と水分摂取の指導が必要である.

 (3) rabdomyolysis:激しい運動(マラソン,アメリカンフットボール,ラクビーなど)により骨格筋細胞が溶解する障害である.稀ではあるが重症な急性スポーツ障害の一つである.運動により骨格筋細胞が溶解し,ミオグロブリンが血中に出現し,異常に多いミオグロブリンと高尿酸により腎不全が誘発され,死亡する.尿が黒褐色になることが診断の手がかりとなる.

 (4) 発作性血色素尿症:剣道に好発するスポーツ障害である.剣道を練習した後に突然に尿が赤くなる.溶血によるヘモグロビンが尿中に出たものである.尿所見以外は無症状・無所見である.通常,安静で軽快するが,ごく稀に腎不全に発展する例もある.

 (5) side stich:運動による脇腹痛(側腹部痛)である.マラソンなどに好発する.原因は脾臓の収縮説などがあるが不明である.特別な治療は必要ないが,右脇腹を下にして安静をとらせるとよい.

 (6) 低血糖症候群:十分な食事を摂取せず,激しい運動を行った時に起る.意識がボッとしたり,体に力が入らなくなるといった低血糖症状がみられる.糖分の摂取で改善する.

 (7) 過呼吸症候群:女子に好発する.緊張状態時などに誘発される.呼吸困難,四肢のしびれ,筋肉の硬直,痙攣などの諸症状がみられる.治療はビニール袋を頭にかぶせて呼吸をさせる(再呼吸法).数分で症状が消失する.反復して過呼吸症候群を起した児童・生徒にはカウンセリングが必要である.

 (8) 運動誘発性気管支喘息:運動にて気管支喘息発作が誘発される気管支喘息である.運動前に気管支拡張剤を服用したり,マスクをすることで軽症化はできるが,完全に予防することは難しい.運動誘発性気管支喘息をもった児童・生徒は,ある程度の運動制限が必要である.同時に,気管支喘息発作を誘発することの少ない水泳,剣道,スキーなどを行わせるのも一策である.

 (9) 運動誘発性アナフィラキシー:昼食にカニ・エビの甲殼類や小麦類を摂取した後に,運動した時に誘発される.ショック様症状が出現する.治療はステロイド剤など抗ショック療法を行う.

 (10) その他:ごく稀には悪性高温症などもみられる.スポーツ種目によっては高山病・潜水病など特殊なスポーツ障害も発生する.

2.慢性障害

 (1) 貧血:女子選手を中心にみられる慢性スポーツ障害の一つである.原因については,髻汗などへの鉄分の排泄増加,鬆鉄分の摂取不足,鬘物理的溶血などがある.時に運動能力が低下し,スポーツ成績の不振の原因にもなる.

 (2) 生理不順:貧血と並んで女子選手にみられる障害である.一般に激しいスポーツを行っていると,生理の発来も遅れる傾向がある.時には,将来,不妊の原因となること,骨粗鬆症への進展もあり,女子選手の健康管理上,特に注意が必要である.

 (3) 不整脈:スポーツを愛好する児童・生徒では1度房室ブロックなどの不整脈が多いことが知られている.多くの不整脈児童・生徒は運動負荷により不整脈は消失し,運動制限の必要がない.運動負荷により不整脈が消失しない例は小児循環器専門医の診察を受けさせるとよい.

 (4) オーバートレーニング:練習のやりすぎにより運動能力が低下したり,競技成績が低下する状況をいう.高度の慢性疲労である.

精神的障害

 クラブや運動部の上級生や同級生との人間関係がうまくいかなかったり,成績の伸び悩み,オーバートレーニングで精神的障害(不眠,自閉,いらいらなど)を起す児童・生徒がいる.不登校の原因になる例もある.

整形外科・外科的障害

 最も多いスポーツ障害である.起る場所は課外授業(約50%)が最も多く,次いで正課の授業中(約30%),学校行事,その他(約20%)である.比較的重い障害だけでも年間に1,500件位発生している.スポーツ種目により起す障害部位・程度など異なる.

 主なスポーツと障害部位は以下のようである.

 (1) 野球:肩(野球肩),膝など

 (2) サッカー:膝,足関節など

 (3) テニス:肘(テニス肘)など

 (4) 水泳:肩(水泳肩),頚椎損傷など

予防と対応

 内科的慢性障害は,学校医の内科検診時にスポーツ障害に注意することで大部分が発見しうる.学校医の活動の中で,スポーツ障害の早期発見はますます重要になるであろう.

 スポーツには整形外科・外科的障害はつきものであることは事実である.しかし,防げない整形外科・外科的スポーツ障害は約20%といわれている.残り80%は予防しうる整形外科・外科的スポーツ障害である.取返しのつかない内科的急性障害や整形外科・外科的スポーツ障害を起す児童・生徒も少なくない.児童・生徒のスポーツ活動に細心の注意と万全の安全体制で臨むべきであろう.

 日本体育・学校健康センターに加入していると平成4年現在,死亡事故時で最高1,700万円,障害は程度により2,290〜49万円が支払われる.


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