葬式賭博入門


 路上にしつらえられた急拵えのテーブルには、トランプやビンゴが所せましと散乱している。そのすぐ近くのテーブルでは中国産4人対面式雀追いゲームも行われ、なみいる男たちが、あるいは近所の女将さん連中が目を血走らせて無我夢中、隣に原子爆弾が落ちても我関せず。これらすべて公には出来ない違法の葬式賭博。マニラの下町では、葬式費用捻出するため庶民の間では白昼から、堂々と開帳されるごくありふれた不法行為である。
 どこの国、時代でも葬式には金がかかる。貧しい失業者の多いマニラの下町でもご多分にもれず身分不相応に出費を強いられる。ここに自然発生的に、必要に迫られ、必然的に、講のようなバランガイ(町内会、隣組)に課せられる共同弔慰金とともに葬式賭博ができた。ちろん死者に鞭打つ取り締まりはまず行われることなく、死者が安心して旅たてるのも葬式賭博のおかげだ。官も民ももちつまたれつ、粋な関係だ。
 死者を出した遺族は本来、打ちひしがれ涙を耐え、悲しみに暮れているのがわれわれの常識的な考えであるが、何事にも陽気で明るいフィリッピンではこの常識はちょっとばかり通用しないようだ。 部屋の外で繰り広げられる修羅場を横目に夜を徹してカラオケを楽しみながら、遺族一同打ちそろって葬式酒を食らっているし、悲しむべきはずの喪主自身熱くなって、葬式そのもを放り出すこともあるという。


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