上高地は都会だった


 梓川の渓流はたいへんきれいだ。鴨も住み着き風景に花を添えている。大正池の枯れ木の数も大変少なくなり、すこし寂しくはなったけれど。黒部第四ダムの出来る前の、むかし、黒部の上の廊下あるいは源流を遡行することは大変困難だった。遡行中の何日もの間は、登山者とはぜんぜん出遭わない。アルプスを縦走しても、ときどきしか人と出会わない。が、槍のコルまでくると、大勢の登山者に出会う。今日は、今日はと登山者と出会う度に挨拶。挨拶もくたびれるが、人間、人のなかで暮らすのも、それが自然で寂しくなくてこれも良い。横尾の出会いからはもういけない。ここからは人の行列、行列。ひとのいない風景はもう無い。上高地にいたってはもう都会だ。ショートパンツのお嬢さん方、若者であふれ、何日も風呂にも入っていない髭づらの山男なんか、もうめったに見かけられなくなった。もう山男の時代ではなくなってしまったのだ。


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