高山病(altitude disease,mountain sickness,altitude sickness,altitude anoxia,hypobaropathy)
高山病は急に突然やってくる。教科書に書かれているように前駆症状(山酔い)があり、段々と強くなっていくということは寧ろ稀である。ある時突然に襲いかかってくる。逐次的にやってくるなら、それなりに対策も出来るだろうが、不意にやってくるからどないもしょうがない。
高地においては気圧,酸素分圧、気温、湿度が低く紫外線の曝露が多いといった環境特性を有している高山病は、こうした環境特性に対し個人における肉体疲労などの身体状況により、高地環境への順応が速やかに行えなかった場合に生じる症候群である。
高山病が発症する高度は2,400m程度とされているが、これは健康成人での高度であり高齢者や心肺機能に障害のあるものでは、さらに低い高度でも発症することが考えられる。また、航空機などによる移動手段の進歩により、海外高地渡航に際し、2000m程度の高地環境でも軽度の異常を訴える例がときに観察される。2000m弱の高度における海外高地居住により多血傾向を観察したといった報告もあり、2000m弱の高度でも高地環境として生体に影響を与え得ると考えられる。
高山病は酸素欠乏症状であるので、酸素吸入を行うのが望ましいことは言うまでもない。地上で60%以上の酸素吸入をした場合には、組織呼吸の抑制が見られると言う。余り高濃度の酸素吸入を長時間行うことは望ましくない。なお、酸素吸入は高山病の症状が固定しないうちに行うことが必要である。また酸素吸入をする場合は、ある程度の死腔があって炭酸ガスの不足を来さないように、再呼吸の可能なものが望ましく、また呼吸抵抗の少ないものが必要である。
anoxiaはヒトは37℃における飽和水蒸気圧48mmHgと、体内で出来る炭酸ガス分圧40mmHgとの合計である88mmHg、すなわち15000mになると酸素の吸収は分圧の関係で出来なくなることによって起こる。すなわち体内に酸素が取り込まれなくなる。したがってヒトは窒息の状態(anoxia)となり、この高度以上では体内から酸素が出る一方となり、anoxidosisの状態に陥る。
病態
第一度(感冒・山酔い型)個人差が激しく、2,000m程度の高度から認められるもので、症状として頭痛、悪心嘔吐、食欲不振、不眠、鼻出血、浮腫、呼吸困難、思考力低下などを訴える。初期の風邪のような症状を表し、今まで良くしゃべっていたものが急に黙りこくなってくると危険信号。生命に直接の危険はないが、悪い方に向かうのか、軽快する方に向かうのが見極めが大切である。普通には、しばらく安静にしておけばよくなるし、しばらく酸素をかませれば軽快する。
第二度(網膜出血型)単独、または他の病態に合併して発症するが、黄斑部出血以外は自覚症状に乏しく気づかれないことも多い。割合、早い時期に出てくるので、もし眼底検査をできれば、早期診断に役立つものである。
第三度(肺水腫型)2700-3000m以上の高所へ急速に到達する場合に生じることがある。通常、24-72時間以内に、呼吸困難、咳、血痰などの呼吸器症状、および悪心嘔吐、微熱、頻脈、チアノーゼといった症状の訴えにより発症する.聴診上は水泡性ラ音を聴取する。急速に悪化し、適切な処置を必要とするし、死亡率は高い。なんといっても可及的すみやかな処置は必要で、低所に移動させなばならない。勿論入院加療を要する。
第四度(脳浮腫型)この状態に至れば、ほとんど不可逆である。頻度は少ないが、激しい頭痛、失調性歩行、幻聴、幻視といった精神神経症状で発症し、痙攣を伴い、急速に意識障害をきたして昏睡から死の転帰をとる病態である。
治療
【酸素吸入】原則、これに勝るものはない。登山用の携帯用酸素ボンベ(500ml位のガスボンベ)が軽くて便利であるが、ヒマラヤ登山なんかは別にすれば、必要な、世界中の山小屋、招待所、ホテルに殆ど完備されていることが多い。初期治療が大切で、10〜15分の酸素吸入で十分であり、もし続けて行うときでも間欠的に行うのがよい。
【薬物療法】
1:組織の酸化促進 ポルフィリン・チトクロームC・オキシアントラフェニール酸・グルタチオン製剤
2:頭痛、頭重感(対症療法) アスピリン・グレラン・消炎酵素剤(ボルタレン・ポンタール)
3:自律神経不安定症状 ウインタミン・トラプラ・ファイナリン
4:不眠症 トランキナイザー・オキシパン
5:減尿対策 塩分の補給・冠拡張剤(テオフィリン製剤)
6:コラップス対策 糖液の静注・点滴・やむをえずステロイド剤の投与
7:循環不全対策 アドレナリン・カフェン・ビタミンC・デギタリス製剤・冠拡張剤・ステロイドの点滴療法を酸素テントのなかで行う。呼吸コントロールの必要なこともある。
8:抗生剤の投与、誤飲による肺炎等の対策である。
【予防薬】
予防薬として冠拡張剤(コルフィリン製剤・テオドール徐放錠・ユニフル徐放錠等)の使用を勧める人もいるが、私は予防剤としての使用には反対である。強心作用、利尿作用を期待して、軽い症状を呈してから飲むのも良いだろう。気管支拡張作用のみならず、その軽度の利尿作用を期待してのことである。老年者ならともかく、若い人にとっては、むしろ、アスピリンの服用が良いかも知れない。西洋人では、アスピリンの服用をよく目撃するが、西洋人は生まれたときからアスピリン、アスピリンである。西欧の母は、子供が、頭が痛い、お腹が痛い、風邪引いた、と言ったら、まず、なんでもかんでもアスピリンを与える。どんな病気でもアスピリンがまず与えられる。アスピリンで治らなければ、はじめてお医者さんに連れていく。こんな生活習慣から、アスピリンを飲んでいるので、これなんかは高山病の特効薬でもなんでもない。でもこのアスピリンは頭痛に良く効くし、血液もサラサラ、よく流れるし、大変理にかなっている。でもアスピリンは胃に障害を与える代表的なクスリ、使用には十分な注意が必要である(非ピリン系薬剤であるが、子供の血液に重大な障害を与えることがある)。結局高山病の予防薬なんて存在しないのだ。
【保温】
どんな病気でも保温が必要なことは言うまでもない。ことに高山病では血中の酸素分圧が低下し、末梢血管が収縮をおこしているので、保温で末梢循環の回復に努めねばならない。
【食欲不振】
一般的対症療法が取り入れられる。過剰な水分の強制補給は循環不全を増長さす危険があるので注意を要する。
【下痢便秘】
高山病の発症予防にも便通を整えることが大切である。腸炎等で脱水症状があり、体力の弱っているときは発症しやすい。
【低所移動】
不幸にして、高山病らしき症状に見舞われたら、出来るだけ早い時期に低所に移動するのがよい。これが最善策である。躊躇うとろくなことがない。
ダイアモックス
旅と病気
東北大学事件(色川大吉教授)
高山病 2(読売新聞社)