光と陰(芦屋淀鋼迎賓館を訪ねて)
光と陰(影)と表現すれば、何を思い浮かべるだろうか。スペインの風土、エルグレコの世界は確かに光と影の世界かも知れない。マドリード、古いプラドの美術館、窓のステンドグラスから漏れ来る木漏れ日のような光は糸を引いている。でもエルグレコの重々しい絵画は別にしても、陽光強いスペインは明るい色のコンストラストの世界のものだろう。トレドも光と陰の世界のもだが、紫外線がきつすぎ、茶と黒のコンストラストであるに違いない。褐色の大地、緑なす潅木のオリーブは、決して白黒の光陰のものではないだろう。
ベニスの光と影、ゴンドラの船頭の黒い帽子と衣装、古くさい石の建物に囲まれ、廊下の様に狭い街路、建物の影が道路に落とし、いつも射影を造っている。運河からギラギラ反射する光のモワレ、でも青い空と緑なす海の色がある。石の橋は、ゆらゆらと影を落としているが、決して白黒の世界のものではない。
F.Lライトと言えば、旧東京帝国ホテルを設計建築したことで有名だ。彼は初期のPrairie Houseの時代からUsonian Houseの黄金時代にかけて、貧富の差もなく誰でもが豊かな、住環境を得られるようにと、小住宅の設計にあたってきたが、1910〜1930年代の世界恐慌の時代、不遇を囲っていたが、縁あって日本に招請され旧帝国ホテルの設計に当たったようだ。世界は機能的、合理性の追求に重点をおいていた中で、彼は機能の追求のみでは豊かな人間性は保証されないとして、有機的建築(organicArchtecture)を理想として実践して来た態度は、自然を大切にすると言う大指針を我々に啓示していてくれるようだ。
7月11日、所用のため、ライトの設計になると言う、神戸のヨドコウ迎賓館(国指定重要文化財)を訪ねる機会に恵まれた。丁度梅雨も明けきれていなかったが、幸いにも、晴天、紺碧の青空のもと芦屋の迎賓館を訪れた。緑深い、神戸港を見おろす高台にその建物はあった。付近には珍しい古風な洋館建て、大谷石の原石の温もりが感じられた。あまり大規模ではないが、付近の風景と良くマッチしており、水平型の平たい矩形のモジュールで大地に根付いているようだ。4階のベランダより見おろす港の風景は素晴らしく、おそらく、古は緑酒を傾けながら、神戸市街の夜景を楽しんでいたことだろうと思われる。
感心したのは、洋間よりむしろ日本間で、畳の上にさす、小さな多数の窓より洩れいる、木漏れ日のような、陰(影)であった。明るい光は糸を引き、黒い影が直線の、白黒の模様をくっきりと映し出している。今日のこの日の、この瞬間だけの、不作為に創り出された陰影だった。欄間に造られた小さな明かりとりと通風のための窓、なんとも心憎い演出だ。バランスのとれたハーモニー、これは決して贅を尽くしたものではないかも知れないが、あまりにも欠点が見当たらない。これは、計算された演出ではないかも知れないが、こんな感動を覚える建築物に出会ったことは、今までなかった。日本の芦屋で、洋館の真の日本建築を見つけた気がする。雨のしとしと降る日も良いかも知れない。どんよりした雲空のもと、また違った趣があるかもしれない。でも光陰(陰影)の芸術は、造って出来るものではないだろう。それとも、天才ライトの緻密に計算された演出だろうか。いづれにしても、こんな瞬間に出会えるなんて、なんて幸福者と言わざるを得ないことだ。
自然の形態を崩すことなく、むしろそれを取り入れて、その中に調和を見いだす。六甲の山並み、稜線はなんの隠蔽も見られない。なんとも素晴らしいことだ。白と黒の演出、光と影、いろいろ対比される物事は数多い。外国に例を見るまでもなく、真の意味での光陰が手近な所にあったのだ。(7/11/99)
偶然文中の間違いを指摘いただき、この建物ヨドコウ迎賓館のホームページを見ることが出来た。こちらの方は全く正しい情報で、僕の独断と偏見に満ちたものとは違う。このページにたどり着いた訪問者は是非オリジナルを訪ねるとよいと想う。(8/29/00 LINK)