HONDA GIRL
昼間の混沌とした雑騒のなかでは気づかなかったが、夜の帳と共に静かな上昇流に乗って漂ってくる。ヌックマム、ジャックフルーツ、コリアンダーの混じりあった、この独特なニホイが、もうすでにある程度免疫の出来た身にも、ひたひたと押し寄せてくる。ホーチミンは、やはりアジアなのだった。
スクーターに乗ったお嬢さん、ホーチミンの街角で良く見かける。スクーターはホンダの日本製に限る。アオザイを着たベッピンさん、たいへん可愛く、明るく、快活である。本物の学生さんかOLらしい。夕暮れと共に、街のあちこちに出没する。
いつまでも続く熱帯夜のため、夜眠れないので散歩にでも出かけようなものなら、必ずどこかから寄ってくる。こちらの歩く早さに併せてぴったりと寄り添うように、ゆっくりとソバをついて離れず、話しかけてくる。片言の英語で。
まず最初、日本語でシャチョウサン,シャチョウサンと呼びかけてくる。誰を呼んでいるのかなと思っても自分のことである。あたりにはそれらしき者はほかにいない。この後がたどたどしい英語に変わる。HOTEL
OK, BED OKとのたまい、最後に○○ DON OKという。繰り返し繰り返し、ひつようにつきまとってくる。約20分間も、癖々した。
これが、かの有名なホンダガールであった。ホテルの入り口まで来るとやっと諦めたようだが、ホテルのドアーマンと数分間立ち話をしてから帰っていった。随分明るそうで、なんら後ろめたいような感情は全然受けなかった。おそらく本物の学生さんだろう。