世にも恐ろしい話


 数人の人間が浮いていた。いやもっといるかも知れぬ。7〜8人かも知れぬ。ウツムセになったり、ウエむいたりしているが、みんな立派な髭を託している。疑うまでもなく、まさしく人間なのだ。蝋細工なんかでは決してない。たしかに生身の人間に比べて褐色の色を呈している。もう既に死んでいることだけはたしかである。涙がでて止まらない。特別な感情も持ち合わせないのに、涙が溢れるのだ。仏さん方の魂はとっくに天国に行ってしまったに違いない。辺り一面強烈なホルマリンの臭気で呼吸困難になる。涙が止まらない。

 後ろに気配を感じて振り向いた。心臓が止まるのかと思った。心の鼓動が早鐘のように鳴り渡っている。鼓動が聞こえるし、拍動が脈打っているのが見られる。吃驚した。声もでない。金縛りにあって身動きもできない。薄くらい部屋の中でもハッキリと確認できる。後ろにいる老女は、顔半分ぶちきられ、片方の目玉は飛び出している。こんな顔は作ろうにも出来るはずはない。オモチャでは決してない。全て本物だ。やけに涙が溢れる。

 二つとも実体験したもので、先の話はある医科大学法医学教室の地下プールでのはなしであり、学生の実習用に尊い献体された遺体がホルマリンのプールで保存されていた。後の話は病理学教室の標本室での話で、何処からか洩れてくるホルマリンの刺激臭で涙がふきかえって来る。同様にベトナムのホーチミン(サイゴン)でもホルマリンの中の奇形児などの標本を見ることが出来る。


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