(真贋のはざま) 
世の中の浜の砂は尽きれども、贋作(数)の種は尽きまじといわれるように古来よりいわゆる贋作と言われるものの数は殆んど無数にあるようだ。模写にしても、それなりに立派なものだから、本人が署名(捺印)すれば、立派な作品であるに違いない。が、美術商(骨董屋)と作家が組んで贋作を造り上げる。実作者にしても、贋作を作る意志なんか、初めから持ち合わせていなかったにも拘らず商人によって贋作に仕立て上げられる。
贋作とは常に芸術につきまとう影、芸術と言う美徳の存在なくして成り立たない悪徳である。人類が、自分たちの歴史の美しさを描きとめた作品、天才と近づくための作品を所有したいと言う願望がある限り贋作者は嘲るように気取り、その利用に応じるべく笑みながら存在してきた。芸術とは天才が一度ならず手を触れた聖遺物や盲目的崇拝物を売る商売なのだ。騙されやすい買い手に贋作者(商人)が提供するのは芸術ではなく、たんなる「真物の保証」である。才能や良心の咎めもない芸術家に、贋作は富のみならず、密かな自己満足、名声をももたらす。己の作品がルーブル、メトロポリタンなどの壁に掛かっていることは、喩え世間の誰一人が知りえなくて最高の喜び復讐となる。
有名な著作者の場合の方が贋作が多いのは当然のことだ。何分にも経済と直接結びついているのだから。古作の場合、それが本物であると断定するには大変難しい作業を要するようで、真物と決定することは殆んど不可能かもしれない。まして実作者自身が間違って、自分の作品だと箱書(署名捺印)きを入れる場合もあるようだ。あるいは、商人の口車に乗せられて、あるいは故意にサインする場合もある。
雪舟の作品にはニセモノが多いと言われている。事実、真作は真少ないようだ。ある学者によると、雪舟の真作は六点のみに留まるといわれているようだ。しかも其の中の二点は贋作だという。それでは真作というものは単に四点のみしか世に存在しないわけだ。立派な図書「雪舟聚成」(講談社 松下隆章)には何百点もの作品が掲載されている。これらは殆んど総てニセモノというわけだろうか。これだけ贋物が多すぎるとわが国国宝に指定されている「四季山水図巻(山水長巻)毛利博物館、1486年」「天橋立図(京都国立博物館)」「破墨山水図東京国立博物館、1495年」等もあるいは贋作ではないだろうか。まさかと思うのであるが真作であるとの100%の確証は存在しない。優れた水墨、楽しませてくれたらそれで十分なんだ。
世間一般には鉄斎の作品には贋作が多いと言われている。鉄斎自身、筆が早く多作家であり、その作品数は一万点とも二万点とも言われているが、その真数の数十倍いや数百倍の贋作が在るとも言われている。鉄斎の贋作者は日本全国で100人以上いたとも言われているし鉄斎自身の人気のバロメーターとして非常に面白い。明治に入って鉄斎の人気が上昇するにつれ、彼の作品を希望するものが増え、それに加え素人にも書きやすいような絵画であり、中には鉄斎自身の筆になるものよりも上手なものまで出現するに到った(鉄斎美術館)。でも形式的には絵を写すことが出来るが、鉄斎の心まで写す事は不可能だ。これがフランスボルドーの言うコンストラクションかも知れない。
考古学者による旧石器発掘捏造事件は日本中を震撼させた。あたらしい石器を古いものだといい、おまけに古い地層を掘る前に、そっと忍び込ませておく。あたかも自分が第一発見者の如く装う。学者も地に落ちたものだ。これこそマッチメイクポンプと言わないでなんと言えばよいだろうか。
商人ブローカーはニセモノつくり没頭し、世の中ニセモノだらけ、美術館だって贋作を掴まされる。欲に絡んだ書画骨董の世界、魑魅魍魎が跋扈する世界、悲喜こもごも、今日もまた悲劇(喜劇)が生まれる。
真贋は大切なものだが、それほどまでに拘らなければならないものなのか。真贋は学者(専門家)にとっては確かに大切なものだが、次郎のような素人にとってはそれほど拘るべきものでは無い様にも思える。絵画を見て楽しみ、自分自身が納得いければ十分ではないだろうか。贋作には真作ほど真に迫る迫力がないということだが。著名画家の作品でも、技量的に不味いもの間あるようだ。鉄斎の作品でも贋作のほうが上手だと言う専門家も多数いるようだ。何が芸術で何が駄作かは永遠の謎かもしれない。
美術界(芸術界)も不思議な世界だ。ある意味では政治の世界にも似通っているようだ。誰が何か言おうとしても真実(まこと)その正誤は立証できるものではない。それ故非科学の分野かもしれない。でも結果論的に、どんな猫でも鼠を捕らえればイイ猫なのかもしれない。政治界も結果論的で結果を伴わなければどうしようもない。又ある意味では医学界とも相通じるようだ。ボスがたとえ黒いものでも白といえば、以後白いものとなる。美術界のボスが白といえば、これは白なのだ。黒といえば黒なのだ。白黒相反する二つの事象が一つに制約される。ことの正非はまた別ものなのだ。科学的検査を持ってしても、これは手段であって立証さるべきものではない。どんな手具立て手段を持ってしてもそれが真実だという100%の証明は不可能なのだ。
世の中そんなに甘くは無い。騙し騙されて流れ行く(鴨長明)のが世の常である。永遠の不条理、断続的連続が何時の世の中でも行われている。楽しければよい。楽しめたら良い。それ以上の感激はない。人間単純な方が万事幸せなのだ。
小山富士夫が切腹した永仁の壷事件は有名だ。唐九郎は、「永仁の壷の事件」での自らの発言の責任を取って人間国宝等を辞退した。しかし一連の瓶子を嶺男が制作した。これはそのうちの一本である。釉薬が器胎を削って押し流すように流れている。「捧 小山冨士夫先生 三州猿投住 加藤嶺男 昭和三五年十月一日」と銘が入っている。唐九郎の長男嶺男が爆弾告白をした。この瓶子は、父が18歳の頃に生掛け(素焼きをしないで釉薬をかける)で焼いたため何者かによって自作の瓶子に字が彫られていることに気付かないで焼いてしまった「永仁銘瓶子・水野四郎政春」ではなく、「昭和銘瓶子・加藤嶺男(昭和35年当時は加藤姓)作」であることを訴えているのです(嶺男)。此処まで問題がこじれて来ると其の真贋、誰の制作かは解からない。関係者以外は藪の中、 小山に、とっても目が無かったとはいえ、美術の世界なんてこんなどす黒い世界の出来事とんだとばっちりに捲き込まれたものだ。
ネットオークション
ネットオークションが年々盛んになっているが、それに伴ってトラブルも多発している。全国の警察が受理したネットオークションに関する相談件数は合計1万7000件を超え、前年比で約3割も増えている。送られてきた品物がぼろぼろの粗悪品だったというケースは珍しくない。人気タレントのコンサートの偽造チケットが売買されたり、プロ野球の人気選手のバットやボールなどに偽のサインを書き入れてヤフー・オークション(真偽は不明なるも贋作を販売したと言う業者の実名報告も存在する。チャンネル2)で販売される事件も発生している。ネットオークションに絵画の偽物が横行しているという噂は前から画商の間で囁かれていた。銀座あたりの画廊へ行ったらいくら値段をふっかけられるかわからないという不安がある。その点ネットオークションは気軽に利用できる。そこに目をつけて素人に贋作を売りつけて儲けようという贋作ブローカーが暗躍することになる。美術市場に贋作が横行しているのはいまに始まったことではないが、ネットオークションの登場でまた一つ新たな市場が誕生した。通常画商はコレクターとの信頼関係を大事にする。変なモノを売っていたら客が離れていくからだ。画商に限らず、信用を大事にするのはどんな業界でも商売のイロハだ。もちろんそれと知らずに贋作を売ってしまうということはよくある。そのときは良心的な画商だったら客に謝罪し、引き取って返金する。ネットオークションは売る方も買う方も顔が見えない。客との濃密な信頼関係はない。昔から贋作はあるが、ネットでより贋作商売がやりやすくなったといえよう。ばれても知らなかったといって返金すればいいし、ばれなきゃ儲けものだ。業者が真作を保証すると言っているが、贋作だと言う証明は購入者がしなければならないし、真贋の判定はどんな手段を持ってしても不可能なのだ。やはり、この世界魑魅魍魎の世界なのだ。世の中悪い奴(悪意のある奴)は多すぎる。(2008/12/20)
贋作事件簿
10. 泰国の骨董屋
11. 中国の骨董物語
12. 蔵宝楼(上海)
13. 大谷探検隊物語(探検隊?・窃盗団?)
14. 取り返せ文化財
15. 一大窃盗団アンドレ・マルロー(フランス文部大臣)
16. 高麗青磁と谷俊成 騙しの天才外務省・京都市・財界・日経新聞社を捲き込む
17. 著作権者の無理難題(金銭闘争) 幻の美術展 サントリー天保山美術館
18. 僕の名は「滝川太郎」 1974年第1回仏蘭西名画展(読売新聞社・文部省)と久保貞次郎
19. 加藤唐九郎「永仁の壷事件」
20. 国立西洋美術館物語(ルグロ登場)
21. 奈良国立博物館物語
22. 藤田嗣治
23. 佐伯祐三
24. 良寛和尚
25. ブリジストン美術館(東京京橋)
26. 落合莞爾
27. 柳海剛(韓国青磁)
28. 富岡鉄斎美術館(兵庫県宝塚市清荒神)
29. エルミァ・デ・ホーリー(ルグロ登場) ルグロ、ホーリー、ルサールとの関係
30. 佐野乾山
31. 泰国(ナーライ神の額)
32. 谷俊成(韓国青磁器 政府・地方自治体・日経新聞社推薦)
33. 美需品盗難 (アムステルダム美術品盗難事件)
34. 春峯庵事件
35. ヴィセント・ファン・ゴッホ オットー・ヴァッカー事件
36. ヴィセント・ファン・ゴッホ「ヒマワリ」
37. トム・キーティング
38. フェルメールの光と陰
39. プラド(スペイン)美術館ゴヤ「巨人」問題
40. 医学の真贋(丸山ワクチン)
41. 雪舟等楊
42. 先祖伝来美術品
43. 良寛和尚
44. 富岡鉄斎論(余韻)
45. 小野道風国宝「円珍勅書」
46. ハン・ファン・メーレヘン(フェルメール贋作問題)
47. 箱入り娘の嫁入り
48. フェリメールと小磯良平
(文中敬称略)