心疾患の管理と指導
心疾患の管理と指導
近年,医療の発達により,慢性疾患の一つである心疾患を有する子供たちが学校に入学し,学校での安全で幸福な生活を送ることが要求されるようになってきた.また,学校心臓検診が日本全国で広く行われるようになり,比較的軽症であると思われる心疾患も発見されるようになってきた.そのために,学校におけるそれぞれの子供たちの生活をいかに行わせるべきであるかが大きな問題になってきている.
学校における心疾患患児の管理・指導の大きな目的の一つは,突然死の予防ということにあるが,このことのみに目を向けると,どうしても子供たちの生活・運動を規制する方向に向かわざるをえない.しかし大部分の子供たちは,心疾患を有していてもある程度の運動は可能であるし,また過度に運動,生活を規制することは,その子供の精神面での発達に良い影響を及ぼさない.このような考えから,過去の長い間の経験により,学校における,あるいは日常生活における運動と生活に関してのいくつかの基準,ガイドラインがつくられている.殆どの場合,この基準,ガイドラインに沿って管理・指導を行えば,大きな問題はないはずである.
学校管理下での突然死
朝,家を出てから家に帰るまでの間,つまり学校管理下での突然死の数は,小学校,中学校,高校,保育園,幼稚園を併せて,毎年約100〜150件位である.この突然死の中で,心臓に起因するものが約80%を占めている.心臓に起因する突然死の発生状況をみると,運動中もしくは運動後が圧倒的に多く,全体の60〜70%を占めている.特に中学生,高校生においてはその傾向が強い.このような事実から判断して,どうしても,学校生活における運動の仕方,生活の仕方が問題になってくる.その学校における生活をどの程度まで行ってよいかを具体的に示したものが,「心臓病管理指導表」である.
「心臓病管理指導表」
心疾患を有する子供たちには,心臓病管理指導表が医師によって記載され,それが,本人および学校に提出され,そこに記載された程度に基づいた日常生活が行われることになっている.
1.医療面
心臓病管理指導表は日常の学校生活における,運動,体育実技,および学校行事,学校活動について,どの程度のことを行ってよいかを指示するものである.医療面からの区分の欄は1〜4に分けられ,1の“要医療”とは,日常,医療を必要とするもの,つまり本人に対する直接的な治療を必要とするものを意味している.例えば,心不全の治療薬,抗不整脈薬などの服用を必要とするものなどを意味している.
2の“要予防内服”とは,その子供が有する疾患に対する直接的な治療ではないが,引続き起りうることに対する予防的薬剤を必要とするものである.例えば,川崎病の冠動脈後遺症に対する抗凝固剤の内服などを意味している.
3の“要観察”は,現在の時点では治療を行う必要はないが,定期的な経過観察が必要なもの,例えば小さな心室中隔欠損で,年に1〜2回の経過観察を必要とするものなどを意味している.
4の“管理不要”は何らかの所見(異常という意味ではない)は存在するが,それが病的でないがゆえに,医療,定期的な観察などを必要としないものである.例えば,心電図上,不完全右脚ブロックが存在していても,心疾患がなければ,医療,経過観察は必要がない訳で,このようなものを“管理不要”とする.
2.学校生活
学校生活規制面からの区分はA〜Eに分けられている.その右の欄に体育実技種目が,“軽い運動”,“中等度の運動”,“強い運動”の3段階に分けられて示されている.また,体育実技以外の教科,部活動も“軽度”,“高度”に分けて記載されている.学校生活面からの区分は,これらのものをどこまで行ってよいかを示している.
例えば,A欄の右側をみると,すべて“禁”と書かれている.つまりAに該当するような子供は,軽い運動から強い運動まで,すべて禁止ということになる.Bでは,体育実技は禁止であるが,体育実技以外の教科のうち,教室内学習,実験,実習工作,技術,笛,ハーモニカ,ピアニカなどは許されている.Cは軽い運動までは許される.Dは中等度の運動までが許される.Eは強い運動も許されているが,部活動については別に決定する必要がある.
部活動の欄の高度のところに“可・禁のどちらかに○を”と書かれているが,高度の運動を伴う部活動,長距離走,遠泳などを行ってよい者に対しては“可”に,行っていけない者に対しては“禁”に○をつけて提出することになる.C欄における,体育実技以外の教科での管楽器の演奏,および軽度の部活動に関しても同様に判断することになっている.
学校行事,その他の活動については最も右の欄に記載されている.学校生活面からの区分A〜Eによって,何をどの程度まで行ってよいかがわかる筈である.
学校生活においてはここに示されたもの以外の運動,行事も行われるであろう.そのような場合には,その運動,行事が,どの程度に該当するかを検討して判断する必要がある.もし判断が不可能な場合には,担当医と相談のうえ決定するべきである.
日常の学校生活
日常の学校生活でどの程度のことを行ってよいかは,上に記した“心臓病管理指導表”に示されたものが根本的基準になる.心臓病を有していたとしても,その大部分は,学校生活面からの区分“E”で管理される.問題は,運動の部活動を行ってよいかどうかということである.表2鵙に部活動の制限の必要のないもの,つまり“E”区分の高度の部活動“可”で管理されるべきものをあげた.また表3鵙に,“E”区分“禁”で管理されるべきものをあげた.
小児における不整脈は決して少ないものではない.しかし,重症なものは比較的少ない.不整脈についても,“心臓病管理指導表”によって学校生活を行うように指示されている.表4鵙に小児不整脈の管理基準をあげた.これに従って管理すれば,殆どの場合,問題はないと思われる.
川崎病の既往歴を有する子供たちが増加している.川崎病は重症の心臓後遺症を有するものから何ら問題のないものまで,非常に幅が広い.表5鵙は,川崎病の既往を有する者に対する管理の目安である.
術後例の管理
外科的手術が多く行われるようになり,術後の子供たちが多く入学するようになってきている.手術後の例は非常に変化に富んでおり,一定の基準で管理することは難しい.一応の管理基準はつくられてはいるが,基本的には担当医と相談し,個人個人の問題を正しく認識して,管理,指導する必要がある.