新薬承認に提言(夢の新薬バイアグラ騒動)
米国で爆発的なブームを巻き起こしている男性の性機能不全治療薬「バイアグラ」の製造承認申請が日本でも出された。米国の臨床試験データを転用するなど異例の処置もとっている。これは、未承認薬でありながらインターネット等で呼びかける個人輸入代行業が繁盛し事実上国内で、販売されていることや、バイアグラによるとされる死亡者もでていることなどが背景にあった。厚生省も審査を急ぐ考えのようで、早ければ来年前半にも医師の処方箋が必要なクスリとして承認されそうだ。
新薬を開発する場合、その効果や安全性を人を使って確かめる必要がある。そのために、まず安全性を確認するフェーズ(1)試験、効果を表すために必要な薬剤の用量の目星をつけるフェーズ(2)試験、さらに数を多くの実際の患者に使用し、効果があるかどうかを判定するフェーズ(3)試験を行う方法が取られている。
バイアグラの場合、フェーズ(2)の試験までは日本でも行われていたが、フェーズ(3)はこれからという段階にあった。しかも、臨床試験のデータを取りまとめ厚生省に申請すると、一般的な新薬では2〜3年の審査期間を必要とすることが普通だった。このため、国内のバイアグラに関する報道のほとんどが、「わが国で登場するのは数年先の見込み」としてきた。しかし、今回の措置は厚生省も緊急審査の必要性を認めたと見ることができ、早ければ年内承認、来年にも日本で発売という可能性も出てきた。
今回ファイザー製薬は、「国内データと外国データとを合わせて申請した」としている。フェーズ(3)に相当するデータは外国、つまり米国で実施した臨床試験のデータをあてはめて、申請することを厚生省も容認したことになり、エイズ治療薬などの例を除き通常の薬事審査の例からいっても、珍しいケース。
バイアグラにエイズ治療薬に匹敵する高い緊急性があるとは思えない。しかし個人的なつてで入手・服用し、現実に死者が出たという状況下では、少しでも早く正確な情報を公開し、医師の処方箋を添付することで、誤った服用を避けるという意味で緊急性があるといえよう。
このバイアグラは、我々に幾つかの問題を提起した。まず、現行の医薬品にかかわる制度のほころびを明らかにしたことだ。
ビジネスやものの流れの国際化が進むとともに、一国の法律では規制し得ないことが増えてきた。薬もその一つだ。日本では未承認薬といっても、既に発売されている国から個人輸入の形を取ってどんどん入ってくる。個人が使用する限り、バイアグラのように処方箋が必要な薬でも一カ月分を輸入することは厚生省の通達にも違反しない。
使い方の指導も受けられず、危険性をきちんと監視できない薬が法律の網の目をくぐり、大手を振って社会に入り込んでいるのである。
その弊害を防ぐ一つの手だては、医薬品の承認を早めることだ。新薬の承認申請から認可まで二〜三年かかっているのを、欧米並の四〜六カ月ほどにし、闇の市場が介在できる期間を短くするのである。
勿論、安全性と有効性の確認はきちんとする。その際、メーカーが審査に必要な費用を負担する米国式の仕組みを導入し、審査期間の短縮を図ることも真剣に検討して良い。
また、バイアグラのように世界的に注目を集める薬については、メーカーを引き込んで、可能な国の間で歩調を合わせて承認し、国際間のズレを少なくする環境整備も考えるべきだろう。
二つ目は情報の開示だ。厚生省はバイアグラによるとみられる死亡者が出てから、インターネットのホームページに使用上の注意などを書いたドクターレターを掲載した。薬の発売元の米国ファイザー社が五月に米国の医師向けに配布したものの翻訳だ。これは遅すぎるという印象が否めない。
厚生省は未承認薬について使用上の注意を載せた文書を配布することは、薬を承認したと受けとられかねないなどとして、こうした処置は避けてきた。
しかし、社会的に関心を集めているものについては、未承認薬といえども積極的に情報を提供することは必要だ。
クスリを逆に読むとリスクになる。薬は何らかの副作用をもつのが普通であり、リスクを最小限にするよう、ユーザーに情報を提供することが重要だ。バイアグラに関しては、必要な情報が医師にも「患者」十分届いていない。
大切なことはユーザーの安全と利益を考えるべきだ。広範な情報の開示が欠かせないし、前向きなことについては、誰も問題ありとはしないはずだ。