不安定狭心症
最近3週間以内に狭心症が増悪した場合(発作の誘因,強さ,持続時間,硝酸薬の有効性)と,新たに発症した狭心症をいう。数か月以上にわたって狭心症の病態が安定している安定狭心症に対比した分類である。不安定狭心症の多くは,粥腫の破綻あるいは亀裂により血管内腔に血栓が形成され,血流量が減少することによると考えられている。この発症機序は心筋梗塞と同じであり,血栓が閉塞性で持続すれば心筋梗塞が生じる。不安定狭心症が心筋梗塞へ移行する危険性が高いのはこのためである。わが国では冠状動脈攣縮が不安定狭心症の原因になることも少なくない。不安定狭心症は集中管理が必要であり,CCUでの入院加療を要する。硝酸薬(多くの場合は経静脈投与が必要),カルシウム拮抗薬,β遮断薬の併用により虚血発作を抑制し,同時に抗血小板薬やヘパリンによる血栓抑制が必要である。内科的治療に抵抗性の不安定狭心症では,PTCA(経皮経管冠状動脈形成術)や冠状動脈バイパス手術が適応になる。
狭心症とは心筋が一過性に虚血に陥るために生じる胸部または隣接部の特有の不快感(狭心痛)を主症状とする臨床症候群である.心筋虚血に伴い自覚症状としては胸痛,心電図におけるSTの上昇および下降,不整脈,心室壁運動異常などの心室機能不全が出現する.これらの特徴は狭心症のすべての症例にそろって出現するわけではなく,心筋虚血が生じても自覚症状がない場合があり,これは無症候性心筋虚血silent myocardial ischemiaと呼ばれている.症状がなくても本質的には同一の疾患で,診断・治療および予後にも差はない.
ST上昇型梗塞
急性冠症候群の病態は,粥状動脈硬化病変の中でもゲル状のコレステロールエステルに富んだ核を有し,薄い線維性被膜に包まれた不安定なプラークが,血管内皮傷害や血管壁のストレス,炎症機転などにより破裂して,これが引き金となり周囲に血栓が形成され,急激に冠血管内腔の閉塞をきたすことにより致死的な心筋虚血・壊死を発症する.
一連の冠動脈イベントの中で,ST上昇型心筋梗塞では完全閉塞型赤色血栓(血小板・フィブリノーゲン・赤血球より成る)を形成し,貫壁性梗塞に進展するのに対して,非ST上昇型心筋梗塞・不安定狭心症(NSTEMI/UA)の場合には,不完全閉塞型白色血栓(主に血小板より成る)を形成することが観察されている.この場合には末梢心筋への微小塞栓により微小梗塞が生じ,NSTEMIや微小心筋傷害(MMD:minor myocardial damage)を合併した高リスクUAなどを発症する.
両者では血栓の組成成分の相違からも明らかなように,治療方針が相異なることに留意すべきである.すなわち,白色血栓により特徴づけられるNSTEMI/UAでは,血栓溶解薬はトロンビンを介した血小板活性化により病態を悪化させる可能性があるので用いてはいけない.この場合には,抗血小板薬および抗凝固薬が第1選択される.
心筋細胞傷害を診断するための血液生化学的マーカーは,細胞質可溶性分画に存在するCK,CKMB,ミオグロビン,心臓型脂肪酸結合蛋白(H-FABP)と,筋原線維を構成するトロポニンT(TnT),トロポニン ,ミオシン軽鎖などが活用されているが,TnT(トロップT)やH-FABP(ラピチェック)などの全血迅速診断法は救急外来などにおける初期トリアージに有用である.表[表]は胸痛症例に対する評価項目と,死亡または非致死的急性心筋梗塞の短期リスク層別化を提示したものであり,増悪型狭心痛,理学的異常所見(肺うっ血,僧帽弁逆流雑音,S3奔馬律,肺ラ音,血圧低下),心電図変化,トロポニンT上昇により高リスク群が判別される.中等度および高度リスクと評価された患者は,CCUまたは循環器病棟に入院させるべきであり,低リスクの場合でも慎重に経過を観察する.
非Q波梗塞
冠動脈内における粥腫の破綻,血栓形成による内腔閉塞によって発生する病態を,最近では一括してacute coronary syndrome(急性冠症候群)とよぶ.臨床的にはこの中には一部の不安定狭心症と急性心筋梗塞が含まれる.しかし,この概念は本来病理学的な知見に基づいて提唱されたものであり,不安定狭心症と急性心筋梗塞は臨床的には明らかに異なるし,不安定狭心症の中にもいろいろな病態が含まれていて,不安定狭心症の発症機序が必ずしも急性冠症候群とは同一であるとはいえない.また,心筋梗塞にもQ波梗塞と非Q波梗塞があり複雑である.最近では不安定狭心症と非Q波梗塞を合わせて,臨床的に急性冠症候群とすることが多い.
A.不安定狭心症の分類と重症度
不安定狭心症は,心筋梗塞に移行しやすい危険な狭心症ということで1970年代から使われ始めた概念である.診断基準はいろいろ変遷したが,本質的な部分は変わっていない.すなわち新規に発症した労作狭心症,安静時狭心症,増悪型狭心症の3つが含まれるが,最近になってBraunwaldは不安定狭心症を発作の重症度,発症状況,発症時の薬物治療状況から3×3×3の27の亜型に分類した.重症度・発症状況の分類を表1[表]に示す.この中で重症度分類のクラスIII(安静時狭心症発作が48時間以内にある場合)が特に心筋梗塞発症へのリスクが高い.また発症状況ではクラスB(明らかな原因がない場合)が本来の不安定狭心症であるが,非Q波梗塞後に狭心症が残っている場合も再度心筋梗塞に移行する危険性が高い.
わが国には異型狭心症が多いため,明け方の睡眠中や早朝の軽い労作で誘発される発作は冠スパズムが関与した狭心症の可能性が強く,必ずしも急性冠症候群とはいえない.しかしながら異型狭心症にも突然死に至る危険な発作があり,また発作の持続時間が長い場合,ニトログリセリン⇒が効き難い場合,冷汗を伴う場合,発作後心電図で陰性T波がみられる場合,心エコーで収縮異常が残っている場合は急性冠症候群であれ,冠れん縮性狭心症であれ,緊急を要する不安定狭心症といえる。