どろぼうの手口




 最近海外旅行が盛んになって,いろいろとトラブルもふえてきた。中国にはハエがいないとか,コソ泥がいないとかいわれていたのは,昔のことで,最近では世界の趨勢におくれじと,置引き,荷ぬき等かなり活発である。中国の都市部はまだよいが,田舎にいけばまだまだ治安のよくない所がおおい。

 チベット,ヒマラヤ山麓でポ−タ−を雇って荷物を運んでもらうとき,リックのポケットのような鍵のかからない入れ物は危険だ。高地では荷物をもったポ−タ−の足が早く,彼等の姿を見失うとたいへんなことになる。岩蔭にかくれて出てこないこないことがある。小さなポケットのついたリックサック等はドンゴロスのようなズタブクロにいれて入口をしっかりと結んでおかなければならない。雇用料は必ず後払にかぎる。後払いでもひともんちゃくおこることがおおい。タクシ−もメ−タ−のない場合,交渉の結果を紙に書いておいたほうが無難だ。

 パリはメトロとジプシ−の子供たちがやばい。子供のジプシ−がよくものを盗んだり,ひったくったりするのは大人がそうさせていることがおおい。ジプシ−の子供たちの原色のスカ−トは遠眼にもきれいで目立つが,ちょとスナップと近付いては事故のもと。彼女たちはよく訓練されており,集団で行動する。西欧の諸国では民主主義が発達しているので実行者の子供たちが罪になることはまずない。たとえ捕まってもすぐに釈放されてしまう。

 イタリヤのひったくりはつとに有名だ。数年前にとうとう日本人女性ガイドの犠牲者がでた。ロ−マで歩道を通行中車道の自動車の窓よりハンドバックをひっぱられ,ハンドバックのひもがからだからはずれず,引きづられて,頭部打撲でうちどころがわるく死亡した。アイスクリ−ム,シャンプ−,ばあいによってはケチャップ等を背中にかけて,親切そうにふきとるのを手伝うふりして,すきをみては荷物を持逃げする。いまやシャンプ−泥は世界的に流行のきざしがある。

 危険なことといえばニュヨ−クの地下鉄はもう論外だ。いままでの観光旅行では,ふつうものを盗られても,傷をつけられることはまずなかったが,ニュヨ−ク・ワシントンではなにがおこるかはわからない。安全だった西海岸でもとくにロスあたりも非常にやばい。宿泊者名簿のコピ−は宿泊者にたいするサ−ビスのためフロントからホテル内のレストラン・バ−等に配布されるものであるが,どうしたことか外部に洩れていることがおおい。とくにハワイあたりの一流ホテルでもこんなことがよくおこる。日本では考えられないことだが,どのホテルの何号室に誰が泊っているか外部にもれている。女性のみの宿泊はよほど気をつけなければヤバイことがおこりやすい。ホテルのフロントのカンタ−のなかにいるだけではホテルの従業員だとはかぎらない。セイフティボックスの利用も自分自身で立合い鍵を必ずうけとることだ。二〜三流ホテルではセイフティボックスも信用できない。この場合事故がおこれば大切なもの全部いかれてしまう。

 ケニアのナイロビ,イスタンプ−ル,インドのデリ−,ボンベイあたりでは贋ドルをつかまされることがある。贋ドルも旅行者のための小額では帰国後警察で面倒みてくれるが,ババ抜きゲ−ムをやるとたいへんなことになる。東欧諸国でも,ヤミドル交換がさかんだ。東欧の観光地では国民の多数がヤミドルに関係している感さえある。南米の諸国のように弊貨のきりさげのあった国ではまことにややこしい。油断すると古い貨幣をつかまされる。いずれにしても,街頭での外貨交換はタブ−であるのは万国共通だ。

 南アのヨハネスブルグ,ケ−プタウンの夜間外出はもってのほか。南米も夜間はとくにやばい。北欧ベネリックスの諸国もアル中が公園,酒場等でごろごろしている。ストックホルム,ベルゲン,オスロ−等で腕に入れ墨のニイチャンがうろうろしているのは,むかしの海賊のまつえかもしれないが,旅行者にとってはあまり気持がよくない。

 マドリッドのリドの美術館のまえで,百戦練磨のツア−の添乗員がお客さんから預かっていたパスポ−ト全部持ち逃げされたという。外国でなくしたパスポ−トがあとで,へんに利用されでもしたら気持が悪い。

 日系二世のフジモリ氏が大統領になられたペル−もなんだかんだと世情不穏だ。ここでもモロッコのカスバ,香港,サンパウロのファベ−ラの世界三大スラムと同様集団スリがおおい。数人で組んでスリをやる。ポンと肩をたたかれ振向くと,他の一人が反対側のポケットのなかみを失敬する。ひとりがひったくって逃げ,あとの仲間が一般通行人を装ってたちはだかりじゃまをする。まわりにひとがいても誰もたすけてくれない。通行人は傍観者だ。警察官もあまりあてにできないい。せいぜい盗難証明書を発行してくれるのが精一杯だ。

 シャンプ−ドロはまだまだ序の口,時計泥,ブ−ツ泥がある。腕につけている時計,はいているブ−ツがぬすまれるなんて?信じられないことがおこる。南米の人達は情熱的だ。街中で女性に抱きついたからといって不自然でない。うしろからやってきた一人が女性を抱き上げ,もう一人がブ−ツのジッパ−をはがして,はいているブ−ツを盗んでいってしまう。まさに神技だ。

 バス旅行では荷物の管理がたいへんだ。車内にはいらない大きな荷物はバスの下の荷物室にちゃんとあるか確認しなければならない。バスの屋根につむこともある。バスの屋根にあげられるのを確認するだけでは不十分だ。バスの屋根にあげられた荷物が反対側まで直行,そこで待ち構えていた仲間によって持去られることがある。屋根の荷物もロ−プをかけ,固定されるまで油断出来ない。荷物をあづけたばあいは,停車して荷物の出し入れのおこなわれる時は,必ずチェックが必要だ。

 日本人特有の腹巻,首から提げる巾着はとくに有名でリマのプロには通用しない。装身具は身につけず,時計はバックの中にいれるのが賢明。カメラも使用後はかならずバックに入れる習慣をつけたい。手にカメラをぶらさげるのは,どうかこのカメラを盗んでくださいといっているようなものだ。ブ−ノ,クスコあたりの高原列車で物売にきたインディオのため窓をあけて,土産物をもとめて身をのりだすとズタ袋をかぶせられ,なにがなんだかわからないうちにすっぱだかにされたということがある。車中でとなりの席の人と話しをするのも旅の楽しみの一つ。しかし食べ物をもらってはいけない。食べ物の中に睡眠薬が入っていて,気がつけばまるはだかということになりかねない。

 日本でもずいぶん荒っぽい犯罪が増加している。

 世界中どの国でも,ほとんどすべての国民はそれぞれ善良で人なつっこい。悪いことをするやつは,ほんの一人か二人しかない。旅は楽しい。事故がなければこれほど楽しいものはない。ただ自分のことは自分自身で守りたい。


旅のトラブル



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