龍の幻影(ハロン湾)
DoragonShadow
湾内に1600を超す奇岩が林立する景観が中国の桂林にたとえられるハロン湾は、ベトナム観光局が設立された1650年、いち早く整備が始まった北部ベトナム屈指の観光地だ。64年にはユネスコの世界遺産の指定を受け、カトリーヌ・ドヌーブ主演の映画「インドシナ」のロケ地にもなった。
ハロン湾にはこんな伝説がある。はるか昔、この地に侵略してきた外敵が人々を襲った。これに怒った龍の親子が舞い降り、侵略者に襲いかかった。尾で山を二つに裂き、歩いた跡が深い谷となった。逃げ出した侵略者達を龍は海まで追いかけた。陸地には海水が流れ込み、谷間は海中に沈み、山の頂が島となった。それ以来、外敵から侵略されなくなったという。そしてこの地はハロン(下龍)と名付けられた。これに対し、龍の昇る街はハノイである。11世紀、今のハノイの市街の中心地あたりの36番街に首都タンロン(昇龍)が置かれた。このような伝説のもと龍の生み出した芸術作品に堪能することが出来る。
ハロンの龍の幻影は生きていた。朝、きらきらした鱗を輝かせ、湾内に明るさをもたらす。龍の鱗の輝きなんてこんなにも眩しく、勢いのあるものなのだ。まさに昇龍の勢いだ。一日のエネルギーの爆発の瞬間である。夕刻、一日の仕事を終えた龍は真っ赤な炎に焼かれ、赤い妖炎に身を包み、辺り一面茜色に変えていく。龍は一日24時間眠らないのだ。夜も漆黒の闇に包まれても何処からかその寝息が伝わってくる。明日も穏やかで暴れないでほしい。
ハロン湾観光の目玉は湾内クルーズ。船着き場で船の手配師の青年と値切り交渉の末、意気揚々と乗り込んだ。船が沖に出て間もなく、地元の漁船がいくつも、追いすがるように近づいてきた。カニやシャコなど、とれたての魚介類を売り込もうというのだ。ぼられてはならじと値切り交渉。買った食材を早速船上で料理してもらい、モノも言わずにほおばった。シャコが甘くておいしい。エビもおいしい。そんなことを思いながら船上で魚料理に舌鼓を打っているうちに、奇岩の群れが目前に迫ってきた。
島の一つに上陸する。島を覆う奇岩の内部に、ティエンクン(天国)という名の洞くつがあった。湾内で最も美しい洞窟の一つで、ライトアップされた鍾乳石は神秘的な感じがする。この洞くつが発見されたのはわずか五年前だという。それ以前は同じ島にある別の洞くつが、最も美しいとされていた。一帯は、海南島などに向けて国外脱出を図るベトナム人難民の経由地という別の顔もあり、洞くつは難民の隠れ家になっていたともいう。
湾内の島には宿泊できるものもある。その中の一つ、ゴクチャウ島に上陸する。本土からわずか2キロ。フランス風の美しい別荘が五棟並ぶほかは何もない、静かな小島だ。しかしオンナの住民は肌着の寝間着のまま、あちこちに出現するし、子供達は夜遅くまで、暗くなっても元気に遊びほうけている。若者達のアベックは、バイクでぐるぐる狭い街中を走り回っている。こんな光景を眺めながら、むかし田舎で夕涼みをしていた時の光景と重なり、妙な懐かしさを覚えた。